歯医者さんに行く
日本を出る2日前、突然前歯が折れました。
もともと上の前歯1本が抜け落ちたので、両側の歯を削って二本の棒状にし、この棒状になった歯に、両サイドに穴のあいた三枚の連結義歯を差し込むという治療が施されていました。このやり方をブリッジというのではないかと思うのですが。
ところが、お歳暮に貰った芋するめを噛み切ろうとしたとき、パキンという音ともに前歯三枚が欠け落ちました。
鏡を見て仰天。何とも好々爺の顔がそこにあったからです。
水野先生は、「明後日出発ですか。応急処置しか出来ませんが」
「一ヶ月ですか。両側の歯に接着剤で留めてあるだけですから、外れないとはいえません。お出かけはどこですか」
「イタリアなら歯科技術も進んでますから大丈夫でしょう」
日本を出て一週間目、クーネオのレストランでチーズの薄切りをあげたものをかじったとき、かすかにピシッという音がしました。大変だ。接着剤が外れたようです。
少しはぐらついたような感じなのですが、そのまま数日間が過ぎた頃、夕飯のルッコラのサラダをかんだ時、前歯が抜け落ちて舌の上に載りました。
あわてて洗面所に駆け込み、注意深く挿入すると、もう落ちずにそのまま止まっています。引っ張らなければ大丈夫のようなので、絶対に前歯には触らないように注意して食事を終えました。
翌日、クーネオの歯医者に出かけました。英語のしゃべれる歯医者を捜してもらったのです。午後3時の予約です。
町の大通りに面したアパートの入り口の案内板のCANTA CARLOのボタンを押すと、ブザー音と共に、ドアーのオートロックが解除されました。
薄暗い階段を上ると2階に達し、Dr. CANTO CARLOと書いた金色の金属板がかかった部屋のブザーをまた鳴らします。
若い女性がドアを開けてくれ、そこが広い待合室でした。中央にテーブルがあり、大きな椅子が6脚置いてありました。
しばらくすると、歯医者さんのDr. Canta Carlo氏と看護婦さんが現れました。
結構上手な英語だったので安心しました。最初に今の状況を説明したいので紙をくださいといって、前歯の治療の状況と水野歯科の応急処置及び今の様子を図に書きながら説明しました。
「日本の歯科医は、1ヶ月持つかどうか心配して、どこの国に行くのか聞きました。イタリアと知るとあの国の歯科は進んでいるから大丈夫といったんです」
ドクター・カンタは「そうですか。とにかく努力します」といいました。
治療は1時間で終わりました。
日本と違うところは、水野歯科ではお医者が何をやっているのかほとんど分からない。でもイタリアでは目の前で準備などするので、すべてが分かります。
一度横に倒れると最後まで起き上がることはありません。日本のように「はい、ゆすいでください」という台詞は全くありません。
医者が口中に細管から水を注ぎ、口中を洗いたまる水は、そばの看護婦さんが吸い出してくれます。
日本の水野先生は「カチカチして下さい」といいますが、カンタ先生は「tak tak please」といいました。
ドクターも看護婦さんも日本と同じようにゴム手袋をしていました。
日本での治療で、水野先生は何種類の接着剤を使ったのか、見えないから分からなかったのですが、たぶん1種類、もしかしたら2種類ぐらいだと思いました。
ところが、こちらでは、まずセメントを使い、次に4種類の接着剤を使用しました。
最後のものは、光硬化樹脂で、看護婦さんが当てるグリーン色の細い光の下で、チューブより押し出された接着剤が塗られました。
どうもこちらの治療の方が丁寧で密度が高いと感じました。なにしろ常に2人掛かり時には3人で処置するのですから。
たぶん日本に帰るまでは大丈夫でしょう。でも前歯で噛んで前に引っ張ってはいけません。横に引いてください。カンタさんはそういいました。
日本に帰った時にぼくの歯医者さんに報告したいので、治療の内容を書いてくれませんかと、頼んでみました。
いいですよ。彼は軽く引き受け、看護婦さんに、君の方が英語がうまいから書いて頂戴などといいながら、口述筆記をさせました。
Dear friendで始まる手紙です。看護婦さんが、「最後はどう書くの、ウイズラブって書くの」などと冗談を言いながら、手紙を書き終えると、ドクターはそれを封筒にいれ、手渡してくれました。
それで「診察料はおいくらでしょうか」と値段を聞きました。
「お代はいりません」というのです。
驚いたぼくは「どうして」とききました。
「あなたは遠い日本からのお客様です。治療代は私からのプレゼントです」
「グラーツェ、グラーツェ、モルトグラーツェ」でした。
一緒に記念写真を撮りました。
もともと上の前歯1本が抜け落ちたので、両側の歯を削って二本の棒状にし、この棒状になった歯に、両サイドに穴のあいた三枚の連結義歯を差し込むという治療が施されていました。このやり方をブリッジというのではないかと思うのですが。
ところが、お歳暮に貰った芋するめを噛み切ろうとしたとき、パキンという音ともに前歯三枚が欠け落ちました。
鏡を見て仰天。何とも好々爺の顔がそこにあったからです。
水野先生は、「明後日出発ですか。応急処置しか出来ませんが」
「一ヶ月ですか。両側の歯に接着剤で留めてあるだけですから、外れないとはいえません。お出かけはどこですか」
「イタリアなら歯科技術も進んでますから大丈夫でしょう」
日本を出て一週間目、クーネオのレストランでチーズの薄切りをあげたものをかじったとき、かすかにピシッという音がしました。大変だ。接着剤が外れたようです。
少しはぐらついたような感じなのですが、そのまま数日間が過ぎた頃、夕飯のルッコラのサラダをかんだ時、前歯が抜け落ちて舌の上に載りました。
あわてて洗面所に駆け込み、注意深く挿入すると、もう落ちずにそのまま止まっています。引っ張らなければ大丈夫のようなので、絶対に前歯には触らないように注意して食事を終えました。
翌日、クーネオの歯医者に出かけました。英語のしゃべれる歯医者を捜してもらったのです。午後3時の予約です。
町の大通りに面したアパートの入り口の案内板のCANTA CARLOのボタンを押すと、ブザー音と共に、ドアーのオートロックが解除されました。
薄暗い階段を上ると2階に達し、Dr. CANTO CARLOと書いた金色の金属板がかかった部屋のブザーをまた鳴らします。
若い女性がドアを開けてくれ、そこが広い待合室でした。中央にテーブルがあり、大きな椅子が6脚置いてありました。
しばらくすると、歯医者さんのDr. Canta Carlo氏と看護婦さんが現れました。
結構上手な英語だったので安心しました。最初に今の状況を説明したいので紙をくださいといって、前歯の治療の状況と水野歯科の応急処置及び今の様子を図に書きながら説明しました。
「日本の歯科医は、1ヶ月持つかどうか心配して、どこの国に行くのか聞きました。イタリアと知るとあの国の歯科は進んでいるから大丈夫といったんです」
ドクター・カンタは「そうですか。とにかく努力します」といいました。
治療は1時間で終わりました。
日本と違うところは、水野歯科ではお医者が何をやっているのかほとんど分からない。でもイタリアでは目の前で準備などするので、すべてが分かります。
一度横に倒れると最後まで起き上がることはありません。日本のように「はい、ゆすいでください」という台詞は全くありません。
医者が口中に細管から水を注ぎ、口中を洗いたまる水は、そばの看護婦さんが吸い出してくれます。
日本の水野先生は「カチカチして下さい」といいますが、カンタ先生は「tak tak please」といいました。
ドクターも看護婦さんも日本と同じようにゴム手袋をしていました。
日本での治療で、水野先生は何種類の接着剤を使ったのか、見えないから分からなかったのですが、たぶん1種類、もしかしたら2種類ぐらいだと思いました。
ところが、こちらでは、まずセメントを使い、次に4種類の接着剤を使用しました。
最後のものは、光硬化樹脂で、看護婦さんが当てるグリーン色の細い光の下で、チューブより押し出された接着剤が塗られました。
どうもこちらの治療の方が丁寧で密度が高いと感じました。なにしろ常に2人掛かり時には3人で処置するのですから。
たぶん日本に帰るまでは大丈夫でしょう。でも前歯で噛んで前に引っ張ってはいけません。横に引いてください。カンタさんはそういいました。
日本に帰った時にぼくの歯医者さんに報告したいので、治療の内容を書いてくれませんかと、頼んでみました。
いいですよ。彼は軽く引き受け、看護婦さんに、君の方が英語がうまいから書いて頂戴などといいながら、口述筆記をさせました。
Dear friendで始まる手紙です。看護婦さんが、「最後はどう書くの、ウイズラブって書くの」などと冗談を言いながら、手紙を書き終えると、ドクターはそれを封筒にいれ、手渡してくれました。
それで「診察料はおいくらでしょうか」と値段を聞きました。
「お代はいりません」というのです。
驚いたぼくは「どうして」とききました。
「あなたは遠い日本からのお客様です。治療代は私からのプレゼントです」
「グラーツェ、グラーツェ、モルトグラーツェ」でした。
一緒に記念写真を撮りました。
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